目次
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市役所職員にとってのコンプライアンスとは
コンプライアンスとは、「法令遵守」と訳され、法令(法律、 政令、省令、条例、規則)違反をしないというだけではなく、 組織内の内部規定等の様々なルールを遵守すること、 さらに社会常識・規範・倫理等、 明文化されていないことに関心を払い行動することを言います。
行政の仕事を進めていくうえで、 市役所と職員に対する市民からの信頼は不可欠です。
しかし、 違法行為や不注意等による不祥事や事務処理ミスが発生すると、 市役所に対する信頼低下を招き市政運営が困難になります。
こういったことからコンプライアンスが市役所の職員にとって重要 になってきます。

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市役所職員のコンプライアンスの土台となる法令等
市役所職員は市民の奉仕者として公共利益のために働く公務員であ り、地方公務員法等で服務規律が厳しく定められています。
・服務の根本基準(地方公務員法第 30 条)
「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、 かつ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」
全体の奉仕者というのが重要で、要は公平公正に、 平等に市政を行わなければいけないということです。

・職員等の服務の宣誓に関する条例( 各自治体で定められており大体同じ文言です)
「新たに職員となった者は、 任命権者又は任命権者の指定した者に対し、別記様式による宣誓書に署名し、これを提出してからでなければ、 その職務を行ってはならない。」
宣 誓 書
「私は、ここに、 主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、かつ、 擁護することを固く誓います。私は、地方自治の本旨を体するとともに、 公務を民主的かつ能率的に運営すべき責務を
深く自覚し、 全体の奉仕者として誠実かつ公正に職務を執行することを固く誓い ます。」
各自治体で同じような宣誓書があり、 採用されたときに署名することになっています。

・法令及び上司の職務上の命令に従う義務(地方公務員法第32 条)
「職員は、職務遂行に当たって、法令、条例、規則、 規程等に従い、かつ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」
法令等に従うのは当たり前です。上司の指示については、 どんなに意見が対立しても、指示には従わなければいけません。 これは民間でも同じですね。

・職務に専念する義務(地方公務員法第35 条)
「職員は、条例に定める特例を除き、 その勤務時間と職務上の注意力のすべてをその職責の遂行のために用い、 基本的に市がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」
勤務時間内は、全力で公務に取り組まなければいけません。また、 本来、市がやらなくていいものはやってはいけません。 よくありがちなケースは、 補助金の申請書をつくってあげたりすることです。 本来は申請者が書く、 あるいはパソコンで作成してつくって提出するものですが、 ご年配の住民が申請者だと、 作成支援していたものがいつの間にか作成自体になってしまってい ることがあります。厳しいですが、 住民にやってもらうべきことはやってもらい一線をひいておかない と、仕事が増えてしまいますし、間違いがあった時に「 あれは市の職員がやったんだ」っと責任問題になります。 市民からは日々要望、要求が寄せられますが、 市がやるべきことかどうかを適切に判断し、仲の良い住民でも、 気軽にやってあげたりしないようにしましょう。
・信用失墜行為の禁止(地方公務員法第 33 条)
「職員は、その職の信用を傷つけ、 または職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。 」
飲酒運転や盗撮等、 公務員の私生活上における不祥事は市役所全体の信頼を低下させる ことから、節度ある行動を日頃から心がける必要があります。

・秘密を守る義務(地方公務員法第 34 条)
「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならず、 退職後もその義務を負う。」
市役所は個人情報を扱う業務が多く、 細心の注意を払わなくてはいけません。また、 仕事で知りえた情報は絶対に漏らしてはいけません。私生活でも、 人と話をするときにうっかり仕事上で知りえた情報を漏らさないよ う注意する必要があります。

・政治的行為の制限(地方公務員法第 36 条)
「職員は、政治的団体の役員としての活動や、 選挙の候補者の応援などの積極的な活動は制限されており、政治的中立性を確保しなければならない。」
友人が立候補するから手伝うとか、 市長が再選を目指すので講演会を手伝う等は、 市民に誤解を招く恐れがあり、控えなければなりません。

・争議行為等の禁止(地方公務員法第 37 条)
「職員は、 地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷 業、怠業その他の争議行為をし、 又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をして はならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、 又はその遂行を共謀し、そそのかし、 若しくはあおってはならない。」
市役所職員はストライキをすることが出来ません。 ストライキ権がないことに関しては賛否両論ありますが、 地方公務員法で制限されていますので絶対にしないようにしましょ う。

・営利企業等の従事制限(地方公務員法第 38 条)
「職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、 工業又は金融業その他営利を目的とする私企業( 以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。) を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会 規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、 地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、 若しくは自ら営利企業を営み、 又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない 。」
市役所職員は、他の会社に就職したり、副業したり出来ません。 ただし、任命権者(市長)に許可を得た場合は別です。実際、 農地等を持っていて、農業をするため、 許可申請を出している職員もいます。また、 選挙の事務の仕事を市役所の仕事とは別にする場合もよくあります (給料は市の職員とは別で出ます)

・各自治体で定めている倫理規定
公正に執務を行うこと、私的利益のために仕事をしないこと、 贈賄を受けないこととうとう基本的なことが書かれています。( 公開されているものもあります)
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市役所業務におけるコンプライアンスのポイント
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法律を守って事務を行う
① 法令遵守
・事務の執行にあたっては、根拠となる法律、要綱、要領、 制度等を確認し、 十分に読み込んで自分が理解したうえで正しく運用しましょう。 今までのやりかたに疑問がある場合は、 前例にとらわれず積極的に修正をしましょう。
・契約関係は、競争が前提です。相見積もり、入札等、 各自治体でルールが定められており、 随時確認しながら適切に執行しましょう。

② 事務処理ミスの防止
・マニュアル等をつくって処理方法について情報共有を図り、 複数の職員によるチェック体制を構築してミスを防ぎましょう。
・万が一事務処理ミスが発生したときは、上司への報告、 住民説明等を行い、透明性を信頼を回復するとともに、 再発防止策を検討しましょう。

③ 公金の適正管理
・市の施設、公金、物品等は税金で賄われています。 私物化することがないよう、 複数の職員による確認等を徹底しましょう。 支給されたボールペン等の事務用品を家に持ち帰ったりするのも厳 に慎みましょう。また、 協議会等の任意組織の事務局を市がやっていることがあり、 そのお金を博打や投資に一時的に使っていたという不祥事も発生し ています。「ちょっとだけならいいだろう。 管理者は自分だけだから分からないだろう。」 という心の隙が出来ないよう、常に、 倫理の意識を高く持ちましょう。

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服務義務・公務員倫理の徹底
① 服務規律の徹底
・先述のように、市役所職員は、 全体の奉仕者として公共の利益のために、 全力を挙げて勤務する義務があります。また、勤務中だけでなく、 私生活の行動が市役所全体の信用に影響します。服務規律は幅広いですが、例えば、遅刻をしないとか、 適切な服装をするとか、 基本的なことをまず守るようにこころがけましょう。
女性のネイルについてのクレームも多いです。
勤務中に関係ないサイトを閲覧する等で過去に懲戒処分をうけた職 員もいます。

また、勤務時間外のお酒に関係する不祥事は多いです。飲酒運転、 飲酒後の自転車運転はもちろんいけません。 飲酒をして他の客と喧嘩沙汰になったり、 ハラスメントとなる発言をしたりということもあります。
大声を騒いでいただけでクレームが次の日市役所にあったこともあ りました。賛否両論ありますが、 日頃から市役所職員は市民から見られていると意識しましょう。
② 利害関係者との適切な関係
・工事業者等から金銭・物品等の提供を受けてはいけません。 また、飲食を共にするなど、 市民から疑いを招くような行為を行わないようにしましょう。これは簡単そうで難しい場合もあります。
例えば、市の職員ですので、子どもの親が利害関係者で、 スポーツクラブやPTAの役員等で飲む機会がある可能性があった ります。
そういうときも絶対に自分の分は自分で支払うことを徹底する、 個人的に付き合うことはしない等意識的に距離を置くことも大事で す。
例えば、市内で飲んでいるところを競合他社が見ると、 どんな風に思うでしょうか。 接待していると捉えられしまう可能性は高いです。 公務員であるがゆえに、 人間関係をやむを得ず制限することがあるということを知っておき ましょう。少し残念ですが、自分を守ることにもなります。

情報漏えいに気をつける
① 個人情報の適正な取扱い
・個人情報とは、住所、氏名、生年月日等の個人に関する情報で、 特定の個人が識別することができるものをいいます。 市役所の業務をしていると、 個人情報を収集する場面が多くあります。

②セキュリティポリシーの遵守
・各自治体で、 セキュリティーポリシーという情報資産に管理に係る指針が策定さ れていますので、これを遵守しましょう。
情報を持ち出さない、USBを使わない、 パソコンを持ち帰らない等、具体的に書かれていると思います。
岩手県釜石市では、2022年に、 40代の職員2人が住民基本台帳の個人情報を違法に取得・ 漏えいしたとして懲戒免職処分にしています。 2人は2015年以降約7年間、住所、 氏名入りExcelファイルを自分のアドレスに送信する方法で、 数万件の情報を流出させていたそうです。(市民の収入額、 被災住所、マイナンバーも含まれていたそうです)
丁寧な住民対応
① 誠実な対応
・市民が窓口に来たときは、 自分の応対が市役所全体の評価につながることを意識、 誠実に丁寧に対応しましょう。
・市民から苦情や要望が多く寄せられ、大変かと思いますが、 根気よくまずは聞き、なるべく迅速に対応するとともに、 時間がかかる場合は途中経過をお知らせしましょう。ただし、 出来ないことは、断ると言うことも大事です。
また、暴力や脅迫など不当な手段によって要望・ 要求がある場合は、上司複数とともに組織的に対応し、 必要に応じて警察の力も借りましょう。

ハラスメントの防止
① セクシュアルハラスメントの防止
・セクシュアルハラスメントとは、職場において、 労働者の意に反する性的な言動が行われ、 それを拒否したことで解雇、降格、 減給などの不利益を受けること( 対価型セクシュアルハラスメント)、 性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため 、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること( 環境型セクシュアルハラスメント)をいいます。
例えば公用車内で、部下の体を触り、それを拒否されたので、 降格させたり、仕事量を増やしたりすることがあたります。 体のことについての冗談やからかい、 食事やデートへの執拗な誘い等は注意する必要があります。
また、市役所ではイベントの準備等でよく力仕事もあるのですが、 「男なんだからもっと力仕事をやってくれ」 というのもハラスメントになります。

② パワーハラスメントの防止
・同じ職場内で、 職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、 業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えられたり、 職場環境を悪化させられる行為をいいます。
「職場内での優位性」とは役職の優位性だけでなく、先輩・ 後輩の間や同僚間での人間関係、専門知識・ 経験の有無などによる、さまざまな優位性が含まれます。
物を投げつけられる、 皆の前でささいなミスを大きな声で長時間叱責された、無視する、 1人ではできない量の仕事を押しつけられる等々があります。

③ マタニティハラスメントの防止
・妊娠・出産したこと、 育児や介護のための制度を利用したこと等に関して、上司・ 同僚が就業環境を害する言動を行うことをマタニティハラスメント いいます。
育児短時間勤務をしている職員に対し 「あなたが早く帰るせいで、まわりは迷惑してい
る」 と何度も言ったりするのはマタニティハラスメントです。 最近では、 市役所の男性職員も育児休暇を取得するようになりましたが、 人数が補填されないこともあり、「あなたが長期間休むせいで、 仕事量が増えたじゃないか。早くかえってこい」 等と冗談でも言わないように注意しなければなりません。 こういった言動が職場環境を悪化させ、 仕事に対する意欲低下を招くのです。

日頃の対策
コンプライアンス違反を防止するためには、 個々の職員が留意するだけでは十分でなく、 管理監督者と相互に点検し合い、 業務環境を日ごろから整えていくことが必要です。
いつ自分の職場でコンプライアンス違反が発生してもおかしくない という当事者意識を常に持ち、次のことを実践しましょう。
・職員と業者が適切な関係を維持しているか、 上司も部下も相互にチェックしましょう。 業者と飲食をして接待を受けていないか、 予定価格や他社の見積価格を漏らしていないか等、 注意してみる必要があります。職員自身も、 業者に絶対に忖度せず、 淡々と入札や契約のルールに従い事務処理を行います。

・業務における前例・慣行について、 法令上問題がないか確認します。市の職員になると、 今まで問題が無かったので、 今までどおりやっておけば大丈夫と思いがちですが、今一度、 法令、制度、事業の要綱をよく読み問題ないか確認しましょう。 前担当者が勘違いして、 必要な処理をしていなかった等も考えられますので、 特に異動したときは注意しましょう。
・意外に大事なのは、職場の雰囲気作りです。 上司の振る舞いが特に大切で、 普段から挨拶や積極的な声掛けにより、 部下が相談しやすい職場環境をつくりましょう。 上司が自分を守るのに必死で、部下の仕事に疑心暗鬼になり、 色々詮索せず、おだやかに声掛けをしたり、 聞いてみたりする必要があります。 市役所は職員が仕事を多く抱えすぎているところも多く、 職員もいっぱいいっぱいです。不安、心配、 懸案事項が沢山あるのが当たり前と考え、 上司が部下に相談しやすい環境を整えてあげましょう。

・公益通報(内部通報)制度を整えることも必要です。 これは業務での法令違反行為や職場内のハラスメントについて内部 の職員等からの通報に対応する仕組みのことです。
職場で上下関係があると、どうしても直接言いにくいこともあり、 公益通報のしくみを整え、職員に周知する必要があります。